海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。
外国にモノを売る、外国からモノを買う。いわゆる自由貿易を促進する政策の1つがFTA/EPA(自由貿易協定/経済連携協定)です。その中でもよく知られたRCEPやCPTPP(別名TPP11)を利用することで輸入国の関税が下がることがあります。これにより締約国間の貿易規模が拡大します。
一方で、大量破壊兵器等あるいはその製造に転用される恐れのある貨物の輸出や技術の供給は法令で厳しく管理されています(外為法に基づき、経済産業大臣の事前許可が必要等)。調達においても、機微な原材料は特定国だけでなく複数国から調達するようにしましょう、ということが言われています。
売っていいの?ダメなの?買うにも制限あるの?よくわからない!という声をしばしば耳にします。こうした関係についてイラストも使って説明します。
自社のサプライチェーンを考えましょう
(S,SSはサプライヤーを意味します)
出典:合同会社トロ資料
1.安全保障貿易管理をまず考えます(イラストの右緑枠内)
まず自社を中心としたサプライチェーンを考えます。お客さん、つまり川下工程でまず考える必要があるのは安全保障貿易管理です。輸出者(輸出申告する当事者)全てが安全保障貿易管理の観点に立ち輸出管理を行うことが「外国為替および外国貿易法」(通称 外為法)で義務付けられています。具体的にやることは、社内体制構築、リスト規制の判断(該非判定)、キャッチオール規制への対応、技術(情報)の管理、などです。安全保障貿易管理に関する概要や留意事項はこちらをご覧下さい。
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/index.html
尚、川上工程ですが、米国由来の貨物や技術を一定値以上利用する場合には、米国ルール(EAR等)を遵守しないと米国企業との取引が制限されることがあります。
2.経済安全保障は安全保障貿易管理の上位概念です(イラストの黄色枠)
似たような言葉で構成されていますが、経済安全保障は先に述べた安全保障貿易管理を含む上位概念です。具体的には、特定供給業者に過度に依存しないサプライチェーンを作ること、製品や技術で秀でること(他者も欲しい製品や技術を自社が保有すること)、を事業活動を通じて実現します。供給業者について留意するので、サプライチェーンの川上情報を入手することが求められます。他者も欲しい技術は最新の注意を払い管理しなければなりません。
川上サプライチェーンについては、強制労働や児童労働により生産されたものでないかという観点で供給網を遡ることが今後求められるかもしれません。安全保障貿易管理のような具体的ガイドラインや基準の設定はまだですが、次のサイトで最新情報を確認しましょう。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/index.html
3.FTA/EPAは安全保障貿易管理を確かめてから利用します(イラストの赤い矢印)
RCEPやCPTPPなど、輸入国の関税削減あるいは撤廃につながるFTA/EPAを利用することで、自社製商品のサプライチェーンで生じるコストを低減することができる可能性があります。また、自社が海外から原材料を購入する場合にもFTA/EPAを利用して日本の関税を削減し、総コストを低減できる可能性があります。
コスト面でメリットあるFTA/EPAを利用するには、1項の安全保障貿易管理面で問題ないことをまず確認してからです。
FTA/EPAに関する具体的やり方は次のブログを参照ください。全6回シリーズです。
https://blog.conocer.jp/haga-overseas-sales06/
4.3つの優先順位と判断基準は?
FTA/EPAは貿易促進、安全保障貿易管理は最先端技術の製品や相手先・用途によっては販売を控える、ということです。ではどうすれば良いのでしょう?
1)安全保障貿易管理に照らしてしかるべき手続きを取る(手続きしなくてもよいケースもある)、2)FTA/EPAを利用する、という手順で業務を進めましょう。FTA/EPA利用時には必ず貨物のHSコードを調べますが、日本関税協会のWEB輸出統計品目表を使うと安全保障貿易管理で必須とも言える輸出貿易管理令別表1の参照番号が同一ページ右側の参考欄に記載してあります。
https://www.kanzei.or.jp/statistical/expstatis/top/index/j
FTA/EPAは関税率比較、HSコードという数値あるいはコストの比率計算で適用可否が判断できます。言わば定量的な判断です。
安全保障貿易管理は、リスト規制は数値で判断しますが、用途や需要者(使用者)についてはメールや現場(建物配置図等)を見ての判断です。用途や需要者判断は数値ではない定性的な作業が必要になります。
経済安全保障では、供給業者について調べることが今後求められる可能性があります。
需要者(使用者)や供給業者の調査を定期的に行うことで、定性的判断を行いやすくなります。財務情報に加え、定性的な情報把握も行うようにしましょう。
まとめ
外為法に基づいた安全保障貿易管理で自社貨物が特別な手続き無しに輸出できることを確認してから、FTA/EPAの利用作業に取り掛かります。自社の新規供給業者がコンプライアンスに沿った事業活動を行っているかも経済安全保障の観点で重要になってきます。相手(顧客、供給業者)の信用調査を行うことで取引判断に必要な情報を入手します。
【プロフィール】
合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)
大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングや研修サービスを、民間企業およびジェトロや中小機構などの公的支援機関向けに提供している。これら機関向けセミナー実績も多数有する。
URL: https://sub.toro-llc.co.jp/