海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。
インコタームズに費用負担についての規定があることをご存じですか?たとえばFOBならば、売り手(輸出者)は輸出時の通関費用や運送に関する費用を負担する、ということが規定されています。同様に、FOBにおいて買い手(輸入者)は物品が引き渡された時(通常は船積み)からの物品に関する費用や輸入通関の税金その他の費用を負担する、ということも規定されています。
インコタームズの費用規定を読むと、あれっ?と思う事項にも出会います。
今一度、インコタームズの費用についてこの場で確認しておきましょう。
FTA/EPAの原産地証明書費用はどちら負担ですか?
買い手(輸入者)負担のFTA/EPA原産地証明書費用
*インコタームズ規定では売主・買主という表現ですが、以下文中ではそれぞれ売り手・買い手と同じ意味です
日本からの輸出貨物において、自己証明しか認められないCPTPP(TPP11)や日EU以外のFTA/EPA原産地証明書は、第三者である日本商工会議所(東京事務所や大阪事務所など)が発給します。料金は基本料が2千円、および1産品につき500円が加算されます。1産品ならば¥2,000+¥500×1=¥2,500、12産品ならば¥2,000+¥500×12=¥8,000ということです。この費用は売り手(輸出者)が負担していますか?
インコタームズ2020では、買主の義務「B9費用の分担」b)という条項において次の費用を支払わなければならない、と規定されています。
「・・・A7(b)に従って書類および情報を取得するにあたり、売主が提供した助力に関連した一切の費用および諸掛」(FCAにおける買主の義務 B9-b)より一部抜粋)
前の文章で記載されているA7(b)は次の通りです。
「・・・売主は、買主の依頼があれば、買主の危険と費用により、通過国または輸入国により必要とされる、・・・通過運送/輸入の通関手続きに関する一切の書類および/または情報を取得するにあたり、買主に助力を与えなければならない」(FCAにおける売主の義務 A7-b)より一部抜粋)
これは、もし売り手(輸出者)がFTA/EPA原産地証明書費用を負担しているとしたら、それを買い手(輸入者)に請求してよい、ということです。あるいは、外国から物品を購入している買い手(輸入者)の場合は、FTA/EPA原産地証明書費用を売り手(輸出者)に支払う必要があるということです。
インコタームズは法令ではないので強制力はなく、当事者双方が合意していれば外部がとやかく言う筋合いのものではありませんが、原則としてはそういう規定です。
次回の価格交渉時にこの件を取り上げるかどうかは、企業さん次第です。
運賃・輸送費などを負担する場合や、輸入関税などを負担する場合の留意事項
CFR/CPTやCIF/CIPなどは運賃や輸送費を売り手が負担します。DDPでは売り手が輸入通関を行い(輸入関税を支払う)、買い手の指定場所までの国内輸送費も売り手が負担します。
売り手の物量が非常に大きい場合は物流費用を船会社や航空会社と交渉できる可能性がありますが、世界的なCovid19流行下のように海上コンテナや航空輸送費用が高騰する状況では、運賃・輸送費を売り手が負担するCFR/CPTやCIF/CIPなどの契約は売り手側の損益に大きなインパクトを与える恐れがあります。
また、DDPでは輸入関税を売り手(輸出者)が負担します。その場合、売り手は正しい輸入関税率を把握して、必要ならばFTA/EPA特恵関税を利用するという判断と実務能力が求められます。輸入国において輸入通関業務や国内輸送業務を行う業者の手配も必要です。
運賃・輸送費の大きな変動が予想される経済環境では、価格の有効期限を短めにする、あるいは運賃・輸送費の大幅な変動があった場合には価格を見直す、という合意を貿易当事者双方で交わしておくことが不可欠です。もちろん、運賃・輸送費の大幅な変動とは具体的にどういうことで誰がいつ判断するか、という定義を事前に決めて合意しておくことが必要なのは言うまでもありません。
インコタームズ2020版の全文は次の有料冊子に英文と和文が掲載されています(No.723)。
http://www.iccjapan.org/book/
まとめ
インコタームズでは売り手と買い手がどのような費用負担をするか、の規定があります(A9やB9項)。FTA/EPA原産地証明書の費用は買い手負担です。運賃・輸送費を売り手が負担する条件の場合は、運賃・輸送費高騰なども想定して価格交渉をします。輸入関税を売り手が負担するDDPでは精緻な計算と業務力が必要です。
【プロフィール】
合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)
大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングサービスを、ジェトロや中小機構などの公的支援機関および民間企業向けに提供している。
URL: https://sub.toro-llc.co.jp/