海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。
海外ビジネストラブルの中でも安定して?多いのが代金決済に関するものです。売り手は前受けで入金したい、買い手は後払いとしたい。その結果として、国際取引においては、契約当事者双方が合意する決済タイミングは出荷の日(船や航空機が出発する日)、というのが貿易での基本認識です。もちろん双方が合意すれば前払いでも後払いでも問題はありませんが、売り手としては入金確認するまで安心できませんね(買い手としては損傷ない商品を受領するまでは安心できません)。
かねは天下の回り物と言うが、当社に回ってこない・・・・・
決済手段の選択(通常の貿易、越境EC)
伝統的な貿易取引では信用状(L/C)ならば銀行保証もあるので安心、ということでした。しかし、買い手にとってはL/C開設コスト、売り手にとってはL/Cで指定されたとおりに貿易書類を作成する手間などから、最近ではL/C決済の利用は減少しています。
また、近隣諸国との貿易増に伴う輸送時間の短縮、航空便輸送の増加、などもL/C以外の決済を選択する理由になっています。
L/C以外の決済手段としては、
- 荷為替手形(D/PやD/A)
- 銀行送金(電信送金)
- 相殺(企業グループ間での決済が主)
がよく利用されるものです。
最近は越境ECなど小口貨物の貿易取引も増加しており、こちらは伝統的貿易取引の決済手段ではなく、
- クレジットカード(利用上限額あり)
- 第三者支払いサービス(Paypal、Alipay など)
- デビットカード
- オンラインバンキング
- 海外送金特化サービス(Wiseなど)
といった少額取引に強い手段が主に使われています。これらは注文時に代金決済が行われるので、伝統的貿易のような代金回収のトラブル可能性は低くなっています。
*日本の税関では、輸出入共に20万円以下の金額ならば簡単な通関手続きで行えます。
何はなくとも信用調査が基本(伝統的な貿易業務)
買い手からの代金未払い事故を防ぐには、信用調査が重要です。取引開始前だけでなく定期的に信用調査を実施します。その内容に基づき、与信限度や決済方法(いつ入金するか)を決めることで未回収リスクを最小限に抑えることができます。
調査にあたっては
- 財務情報
に加え、
- 企業概要
- 事業概要
- 株主・役員情報(対象企業と、そこが属する企業グループでの位置づけ)
- 企業の実在性
- 客観的評価(信用力の格付け)
といった事項を判断して取引開始・継続することが非常に重要です。
貿易保険・輸出取引信用保険
不幸にして外国の買い手からの代金回収ができない場合に備え、輸出取引信用保険に加入しておくことを検討しましょう。
- 政府系(日本政府が100%出資)の(株)日本貿易保険が海外取引の代金回収リスクに備える保険を提供しています。
https://www.nexi.go.jp/index.html - 民間企業では、損害保険各社が輸出取引信用保険を提供しています。詳しい内容は次のサイトを参照下さい。
https://www.mitsui-credit.com/service/preserve
保証ファクタリング
売掛金など売上債権が一定条件下で未回収となった場合に、取引先ごとに事前設定された諸条件に基づき保証金を得る方法です。詳しい内容は次のサイトを参照下さい。
https://www.mitsui-credit.com/service/preserve
次回は運送や通関関連のトラブルについて説明します。
まとめ
伝統的なL/C決済利用が少なくなっています。他の決済手段での未回収リスクを最小とするため、信用調査を定期的に行うことが必須です。万が一に備え輸出取引信用保険・貿易保険の加入を検討しましょう。
【プロフィール】
合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)
大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングサービスを、ジェトロや中小機構などの公的支援機関および民間企業向けに提供している。
URL: https://sub.toro-llc.co.jp/