2015年7月、国連安保理 常任理事国(米英仏中ロ)にドイツを加えた6か国はイランとの間において、核開発を制限することを条件に、経済制裁解除の合意に達し、核開発制限の履行確認を経た2016年1月に、制裁解除が実現しました。米国は国内法の関係で1年後になる見込み)。今後、イランの核開発は10~15年にわたり制限されることから、中東における核拡散に歯止めがかけられることが期待されます。
経済制裁の解除を受け、イランは国際社会に復帰し、これまで中国などに限定されてきた貿易が自由化することを受け、経済停滞に苦しんできた状況からの脱出の可能性が高まりました。特に、石油輸出国機構(OPEC)第3位である原油産出量を増大させると予測され、すでに欧米のメジャーがイランの原油などの資源権益を巡り、動きを活発化させています。
それでは本コラムでは、イランとサウジアラビアが対決色を強めるなど政治情勢の混迷化が進む中東の現状を整理すると共に原油価格の動向について考えてみたいと思います。
▼目次
経済制裁解除と中東情勢の混迷化
1979年のイラン・イスラム革命を機に、米国のイランへの経済制裁が始まり、欧州各国がそれに連なったことから、イランは国際社会からの孤立を深めました。しかし、今回の経済制裁解除を機に、イランは国際社会へ復帰することになり、新たなビジネス機会がもたらされた点で、各国は期待を膨らませています。一方、イランの勢力拡大は、今後中東の政治を複雑化させる引き金にもなると見られています。
もともと、イランはシーア派の盟主であり、現在はイラク、シリアをつなぐ三日月地帯にシーア派連合を構築しています。さらに、イエメンにおけるシーア派武装組織「フーシ」やシリアのアサド大統領を支援するなど、拡大主義を強めています。したがって、スンニ派の盟主であるサウジアラビアとのヘゲモニー(主導的地位)争いは、激化の一途を辿っています。
現在中東で進行する事態は、既存の国際秩序を受け入れる米欧と、それを認めないロシア、中国などとの対立構造を反映したもので、その代理戦争が繰り広げられていると言って差し支えありません。特に、オバマ政権下における米国は、米国人の血は一滴も流さないという協調外交である、オバマドクトリン(「ドクトリン」は政治、外交、軍事などにおける基本原則のこと)を進めてきました。この外交政策に沿い、米国はイランとの融和を進めてきましたが、その結果、サウジアラビアとの関係が冷えてきたことは否定できません。
これまでのサウジアラビアは、米国と同盟し、また湾岸協力会議(GCC)6か国を率いて中東を主導してきました。しかし、米国がイラン寄りになることに不満を拡大させ、現在はイランとの対立を表面化させ、国交断絶に至っています。また、ロシアとの接近を図るなど、シリアをはじめ中東情勢の混迷化は一段と進んでいると言えるのです。
原油価格への影響
それでは、イランの経済制裁解除の原油市場への影響について考えてみましょう。
現在、世界の原油供給量は日量9,200万バレル程度で、米国、サウジアラビア、ロシアがそれぞれ1千万バレル程度のトップシェアを有しています。特にサウジアラビアは、ベネズエラなどOPECの他のメンバーからの価格維持に対する要望に耳を傾けず、シェア拡大に取り組んでいます。一方の需要サイドにおいては、中国経済の悪化懸念が根強く、需給の改善が当面読みにくくなっています。
このような状況下において、資源埋蔵量において原油が世界4位、天然ガスが世界1位と言われているイランが国際社会へ復帰することは、世界的な資源供給量のさらなる拡大を意味します。さらに、経済制裁解除により新規プロジェクトが一気に動き出し、インフラ整備が進むことで今後の増産期待が高まっています。
この結果、米エネルギー情報局(EIA)の分析では、制裁解除により日量70万バレルの増産と在庫(約3,000万バレル)の販売が可能としており、その結果、2016年の原油価格は、1バレルあたり5-15ドル程引き下がる可能性があるとしています。したがって、当面のWTI原油価格(アメリカ合衆国南部のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称のこと)は、30~45ドル水準での低迷が続くとの見方が支配的となっています。
まとめ
第一次世界大戦中、欧米各国によりオスマン帝国崩壊後の中東の国境の線引きが行われました。それ以来、米国が主導し、サウジアラビアやイスラエルが米国に協力する形で、中東和平が図られてきました。しかし、100年前に設定された国境線に納得しない勢力の反発は根強いため、中東情勢の混迷は今後も続いていくと言えるかもしれません。