建国240年を迎える米国は、政治・経済・文化などさまざまな面で世界を牽引してきました。
これまでの米国には、「アメリカンドリームを体現できる国」、つまり「機会の平等」に恵まれた国として世界中からヒト・モノ・カネが集まってきました。しかし現在、1%の富裕層と99%の中間層、貧困層との格差拡大といわれるように、米国の最大の魅力であり特徴である「平等社会」が崩壊の危機に直面しています。
また対外的には、これまで「世界の警察官」として世界をリードしてきましたが、現在では財政的にもその余裕がなくなりつつあります。
そして米国は、21世紀に入ってから同時多発テロ、リーマンショックと政治的・経済的に大きな衝撃を受けました。いま、世界をリードしてきた米国が直面する課題、そして米国の持つリスクとは何かを考えてみましょう。
▼目次
アメリカの平等社会は崩壊しつつある
<平等社会崩壊の背景―格差拡大>
原因はさまざまに述べられていますが、今や米国の経済的な格差は、先進国でも最大になったと言われています。かつては誰にでも成功のチャンスが与えられる国として、「機会の平等」を誇っていたはずのアメリカが、先進国の中で最も格差の進んだ国になってしまったのです。
2011年には「ウォール街を占拠せよ」と富裕層に反対する大規模なデモが発生しました。デモに象徴されるように、米国国内では格差が定着し、階級化しつつある社会への不満が高まっています。
また「機会の平等」を下支えしてきた宗教・人種上のマジョリティも、人口構成の変化にともない消滅しつつあります。
17世紀初頭、メイフラワー号に乗った清教徒が新天地アメリカに降り立ってから、欧州諸国の人々による米国への移住が活発化しました。その結果、米国のマジョリティは「WASP」、つまり白人(ホワイト)・アングロサクソン、プロテスタントとなり、これらの人々を中心に国が作り上げられてきました。
しかし近年、米国の人口に占めるプロテスタントの割合は6割を切り、カトリックを含めてもキリスト教徒は8割程度となりました。人種マイノリティ層の人口増加に伴い、イスラム教・ユダヤ教・仏教・そして無宗教の割合が高まったためです。宗教が社会を一体化させる効果は薄れつつあると言っても良いでしょう。
<「平等」とは何か?―「結果の平等」と「機会の平等」>
アメリカンドリームの実現が難しくなった社会変化を背景に、民主党政権は平等社会の維持を模索しています。具体的には、富裕層に増税する一方で、「医療保険制度改革」に代表されるように貧困層でも医療保険に加入できる福祉策を講じているのです。
しかし、共和党は、平等とは「結果の平等」ではなく「機会の平等」であるべきだとしてバラマキに対し反論を強めています。今後も「平等とは何か」について、米国では国を二分して議論することになるでしょう。
アメリカが「世界の警察官」を続けることは可能か
<「人権外交」がもたらしたもの―厭戦気分の高まりと財政面での限界>
米国はこれまでカーター大統領が提唱した「人権外交」を旗印に「世界の警察官」として地球規模での外交を展開し、北朝鮮、イランやイラクを「ならず者国家(rogue state)」として対決してきました。
この過程で起きた2001年の同時多発テロは、米国の内政・外交に様々な影響を与えました。テロを機に、イラクやアフガニスタンで戦争に突入し、その長期化とともに国民の厭戦気分が高まり撤退が進みました。
同時に、財政的にも世界の安全保障を米国一国で維持する事は困難になっています。
中東からアジアへ―国際政治への影響
いま、米国の外交政策は中東からアジアへと軸足を移しています。これは、中国台頭への対処、そして、「シェール革命」によってエネルギーが自給可能になり、中東への依存度が減少したことによる方針転換です。
しかし、米国の影響力が減少した中東は、過激派組織によるテロ活動やイラン・イスラエルの対立などさまざまな問題が噴出しています。つまり、米国が「世界の警察官」としての役割を減少させたとたん、国際政治の安定がぐらつくのです。
用語解説:シェール革命いままではコスト面、技術面の制約により困難だったシェール層(地下数百~数千メートルの頁岩層)からの石油、天然ガス抽出が可能になったことによって、エネルギー環境が大きく変化したことを指す。シェール革命により、2014年の米国の原油生産量は(前年まで首位であったサウジアラビアを抜いて)世界首位となった。 |
最大の米国リスクは経済にある
1990年代以降、米国は金融立国を目指してきました。銀行と証券の垣根は取り払われ、シャドーバンキングが活発化しました。その結果、リスクがさまざまに張り巡らされ、
「どこにどれだけのリスクがあるのか誰も分からなくなった」 という点こそ、現在の米国のリスクと言えるでしょう。
実際に、2008年秋に米国で起きたリーマンショックは、世界的な金融危機へと発展しました。世界各国の財政出動と金融緩和によって一難を乗り越えたものの、当時の米国株価は半値程度へと暴落し、貿易も縮小しました。これは、いかに米国の金融リスクが世界経済に与える影響が大きいかを教えてくれたと言えるでしょう。
今後は金融を正常化させるために新たな法律が準備されています。しかし、法律が利益追求のためにリスクを取ろうとする人の気持ちをコントロールすることができるのか疑問の残るところです。
まとめ
過去100年、米国は経済、国際政治上世界のトップとして君臨してきました。しかし、それを支えた平等社会は変質しつつあります。その米国社会の変質は、世界の安全保障にも変化をもたらすことになるといえるため、一国の国内問題としてだけ捉えることはできません。つまり、世界の政治、経済、文化は米国抜きでは語れないのです。
それでは今後7回に渡り、さまざまな角度から米国のリスクについて考えてみましょう。
●コラム筆者プロフィール●
名前:テムジン
リスクマネジメント界のチンギス・ハンです。
一言:迷える子羊たちに、世界各国のカントリーリスクを 分かりやすく説明します。 |