「最近、うちのボス(フランス人)が日本での商売にビビりすぎてなかなか決裁が下りないんだよ」
外資系企業に勤める私の友人(千葉生まれ千葉育ち)が、こんなことを話してくれました。
彼の会社はフランスに母体を持つメーカーで、日本を新しい市場と見込んで現地法人を設立した会社です。彼は同業からヘッドハントされてその会社の営業部長に就任しました。主に販路を拡大すべく代理店開拓をしていたのですが、日本に進出して1年もしないうちに、代理店の1社が夜逃げしたというのです。
結局、代金は回収できずに、本国にそのことをご報告。きついお叱りがあって、それからというものちょっとでも業績の悪そうな先にはなかなか販売の許可が下りなくなってしまい・・・冒頭の発言となります。
日本のことわざに、「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」というものがあります。前の失敗に懲りて、度を越して用心深くなるという意味のことわざです。このことわざ、なんとフランスにもあるそうです。
( 熱湯でやけどをした猫は冷水を恐れる)
彼は、「悪イ取引先ハ モウ、マッピラダヨ。コンナ取引ハ スベキジャナカッタ。モウ、ゼッタイニシナイ」みたいなことを漏らしていたそうです。彼はダチョウ倶楽部には入れないでしょう。熱湯…。
しかし、どこにでもありそうな話です。おそらく全く逆の立場で、フランスで同じことを言っている日本人もいたりするかも・・・なんて思ってしまいます。異国の地で何とか自社の製品を売っていきたい!でも悪い取引には売れない。このジレンマは海外取引とは切っては切れないものです。
さて、ふと思ったのですが。そもそも良い取引先とか悪い取引先というのは、どういう得意先のことを指すのでしょうか。
与信管理の面から言えば、良い取引先とは信用度の高い先、債務不履行を起こす可能性が低い先というところでしょうか。一方、営業の面から言えば、たくさん買ってくれる先、儲けさせてくれる先ということになるかもしれません。
では信用度が悪いけれども、たくさん買ってくれて儲けさせてくれる先は、良い取引先なのでしょうか?悪い取引先なのでしょうか?
正直、思うんですが、信用度の高い先とばっかり取引をしていて、目標としている売上や利益を達成できれば苦労しません。利益率は高いけれども信用度の悪い取引先との取引を、どうにかこうにか条件を設定してリスクを減らして「よい取引に変えていく(取引の質を上げる)」ことが与信管理スキルの守備範囲です。
そして逆に、利益が少なかったり、多く取引ができない信用度の高い先の取引について、利益率を上げ取引量を増やして「よい取引に変えていく(取引の質を上げる)」ことがCRMやマーケティングスキルの守備範囲だと思っています。
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そもそも「取引」を辞書で引いてみると以下のようなことが書いてあります。
1 商人と商人、または、商人と客との間で行われる経済行為。
2 互いに利益を得られるよう交渉すること。
辞書通りに行けばWin-Winの状況が普通です。
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リスクを減らすためには?取引条件を良くするためには?
相手との立場で自社が付加価値(※)を提供してよりWin-Winの状況を共有することです。
(※売れるための付加価値向上の根本的な考え方についての本では、「マーケット感覚を身につけよう(著:ちきりん)」が面白かったです。)
そのために共通して必要な作業があります。それは、現状の取引状況を多角的に整理すること、つまり自分と相手の情報、そしてその両者を取巻く環境や関係性の情報を入手し整理することです。
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しかしこれがなかなかできません。ものすごくコストがかかる気がします。
例えば・・・1件30,000円。これが顧客の情報を調べる海外の調査レポートの値段です。高いです。このレポートの内容を取引先の与信管理(取引先の与信を判断する根拠)だけに使っている会社さんがほとんどです。正直、毎年与信をとるためだけに1社に30,000円払うなんてって思う方が多いのも納得です。
でもそれはこの情報を与信管理(継続取引の決済をとる)ためだけと考えるからではないでしょうか。
このレポートにのっている情報を中心に営業担当の情報(競合他社にはどういうところがあって、相手の社長が変わっていて…)、そして今までの取引の数字的な情報や契約関係や自社の商品やサービスのラインナップ、これらをすべて効果的につなげることが出来たら。
必ずやWin-Winの取引となるはずです。まさに「良い取引」への第一歩です。
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このブログを読んでいただいている方で、
新規で取引を開始した時以来、相手の会社の内容や状況、取引条件など調べ直していないかも・・・なんて思い当たる方はいませんか?
是非この機会に、情報を集めたうえで(コノサーでも購入できます)コノサーも使って貴社の取引を取引先の情報を見直してみてください。与信管理の面だけではなく、取引条件や取引拡大のための情報が埋もれています。
貴社の取引が質の高いものにどんどん変化する手助けができればこんな嬉しいことはありません。
コストをケチる余り貴社の海外ビジネスが「羹に懲りてなますを吹く」にならないことをお祈りしています。
あっそうそう、おまけでもう一つ「羹に懲りてなますを吹く」の対義語は、「のどもと過ぎれば熱さ忘れる」だそうです。これはこれでまずいです(笑)