ウクライナ情勢が与えるインドへの影響
インドで日本企業の進出支援を行っている公認会計士の野瀬大樹です。
今回はインド予算案に触れる予定だったのですが、予算案にあまりインパクトの大きな情報がなかったのと、2月23日、それを大きく上回る世界的事件が生じたので今日はそれについて触れたいと思います。ロシアによるウクライナ侵攻です。
日本でも大々的に報道されているように、23日、ロシアのプーチン大統領がウクライナでの軍事作成の命令を出しました。ウクライナ東部は国際法上はウクライナの領土ですので、これは事実上の戦争です。
ただ、現時点でも情報はかなり錯綜しており、この侵攻がどの程度の規模になるのかは不透明な状況です。
世界各国の株式相場は大幅に下落し、原油価格は高騰、またアメリカや西ヨーロッパ諸国、加えて日本もロシアに対する経済制裁について言及しています。
ウクライナ情勢に対するインド政府の動きは
では、本件に関するインド政府の動きはどうでしょうか。
実はインド政府は本件に関して非常に「静か」です。特にロシアを批判することはなく「平和と非暴力を望みます」とのコメントを出すだけです。それに対し在インドロシア大使館も「インドの中立的かつ独立的な意思に感謝する」との声明を発表しています。
対中国でアメリカや日本と歩調を合わせるように見えるインドは、どうして今回の件については中立を保っているのでしょうか。
ひとつは、長年の歴史です。インドは実は旧ソ連時代からロシアと非常に友好的な関係を築いてきた歴史があります。今でも国防関係の装備・設備はロシア製が多く、モディ首相とプーチン大統領の個人的関係も良好です。
加えて、インドがロシアからの原油や天然ガスの輸入に依存しているという現実もあります。同じくロシアの資源への依存度が高いとは言えNATOに加盟して欧州に位置するドイツと異なり、インドは今回の侵攻で特段被る不利益はありません。それよりコロナで打撃を受けた国内経済に悪い影響を与える可能性あるエネルギー問題のほうが大事だというある意味合理的な判断が働いているのだと思います。
また上記のように軍隊の装備をロシア製に頼っていることからも、ロシアとの関係をこじらせるのはあまり得策とは言えません。
今回の戦争が起きた翌日の新聞では、早速インドの株式相場Sensexが大きく値を下げました。新聞各社も「エネルギー輸入国であるインド経済に悪影響を与える」との報道が目立ちます。加えて、インドはウクライナからも食用油を多く輸入しているため、家計に与えるインパクトも懸念されています。
インドとしては、ロシアへの依存度の高さから、穏便になんとか平和裏に事が収まるのを待つ…という戦略をとらざるを得ないのかなというのが現地での雰囲気と言えます。
まとめ
・インドはロシアによるウクライナへの侵攻について中立の立場
・エネルギーのロシアへの依存が大きいため、この騒動に極力巻き込まれたくないという心情か
・場合によってはコロナで傷ついた国内経済に致命的ダメージを与えるためこれだけは避けたい
【プロフィール】
野瀬 大樹(のせ ひろき) 公認会計士・税理士
大手監査法人勤務の後、NAC国際会計グループに参画、インドのニューデリーにて主に日系企業をサポートするコンサルティング会社NAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、同代表に就任。インド各地にて、会計・税務・給与計算に加え、各種管理業務に関わるコンサルティングサービスを提供している。
事務所HP:http://in.nacglobal.net/