感染拡大による日本人駐在員への思わぬ影響
インドで日本企業の進出支援を行っている公認会計士の野瀬大樹です。
7月、インドの新型コロナ陽性者数はとうとう100万人を突破し、世界3位に。その勢いはとどまるところを知らず、7月24日時点では一日5万人に迫る勢いで新規感染者が増えています。
現地で暮らす日本人駐在員は、3・4月に概ね日本へ帰国していたのですが、残った人も5・6月そして7月の臨時便で続々と日本へ帰国した。インドは感染拡大が続いているため、その人たちはインドに戻る予定もなく、中にはこの一時退避のまま急遽本帰国になった人も少なくない。インドに残した荷物は現地のスタッフにまとめて日本に送ってもらうと聞くが、このコロナ禍の先行きの不透明さを示す事例だと言えます。
さて、そんな駐在員の一時帰国ですが、上記のように長引いているためいくつかの問題が出始めています。それは税制面の問題です。
日印租税条約においては、仮に片方の国に「出張」をしてもその日数が183日を超えない場合は、「短期出張者」として扱われその国において課税されないという規則があります。上記の一時避難については当初駐在員も日本の本社も「3か月程度」の避難と考えていたため、この「短期出張者」として処理してようとしていたのですが、問題の長期化で雲行きが怪しくなってきたのです。
ほとんどの駐在員は3月4月に避難しているため、本年度においては9月末あたりには183日を超えてしまう計算になり、彼ら彼女らが受け取っている「インド法人からの給与」に関しても日本国内でも課税されてしまう可能性が高まってきたのです。
当然インド側も「インド法人からの給与」には課税を主張するので、結論としてはどちらかの国の確定申告においてもう一方の国でとられた税金を「外国勢税額控除」を利用して取り戻す必要があります。
またインドの給与に関しては「手取り保証」になっているケースがほとんどですので、この場合還付されたお金は個人ではなく会社に戻すべきものと考えられるため、この戻したお金を会計上・税務上どう処理するかという問題も生じるのです。
このあたり人件費ということもあり非常にデリケートな問題ですので、そろそろ本社人事部を巻き込んでの対応策をそろそろスタートしたほうが良いと考えられます。
まとめ
・インドのコロナ問題の長期化で「駐在員の税務上のステータス」に変化が生じる
・一旦は2重課税になる可能性が高いので確定申告による還付が必要
・本社経理と人事を含めての対応策が必要
【プロフィール】
野瀬 大樹(のせ ひろき) 公認会計士・税理士
大手監査法人勤務の後、NAC国際会計グループに参画、インドのニューデリーにて主に日系企業をサポートするコンサルティング会社NAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、同代表に就任。インド各地にて、会計・税務・給与計算に加え、各種管理業務に関わるコンサルティングサービスを提供している。
事務所HP:http://in.nacglobal.net/