
前回は担保・保証等による債権保全策についてご説明しました。今回は、海外取引において支払遅延を防ぐための方法について解説致します。
海外取引において、「代金が期日通りに支払われない」という事態は、残念ながら珍しくありません。しかし、適切な予防策と発生時の迅速な対応を知っていれば、リスクを最小限に抑えることができます。今回は、支払遅延を未然に防ぐための契約時の工夫から、実際に遅延が発生した場合の具体的なステップまで、実務の現場で役立つノウハウを解説します。
1. そもそも遅延させない!「予防」の鉄則
支払遅延を防ぐためには、契約段階での「仕組み作り」が最も重要です。
「オープン・アカウント」は避ける
単なる掛け売り(オープン・アカウント)は、債権回収のリスクが最も高い方法です。可能な限り、以下の決済手段を取り付けましょう。
- 手形・先日付小切手: 多くの国では手形交換所制度があり、不渡りによる信用失墜を避けるため、債務者は期日厳守の意識を強く持ちます。また、国によっては小切手の不渡りが刑事罰の対象となるため、強力な心理的圧力となります。
支払振りが悪い先には「事前督促」を
過去の取引で支払いが遅れがちだった相手先には、支払期日の数日前に電話などで支払督促を行うことも、遅延防止に効果的です。
2.支払遅延発生! その時とるべき「初動対応」
万が一、支払期日を過ぎても入金がない場合は、早急な対応が不可欠です。状況に応じて、以下のステップを組み合わせて実行しましょう。
Step 1:電話と文書による通知・督促
まずは電話で連絡し、状況を確認しつつ支払いを促します。同時に、文書による督促も行いましょう。
- 督促状の準備: 事前に定型文を用意しておくとスムーズです。
- 言語と手段: 英語圏以外では、英語と現地語の2種類を作成します。内容証明郵便の制度がある国では、その利用が望ましいでしょう。
Step 2:現地訪問による実態把握
支払遅延の背景には、相手先の資金繰りや業態の悪化が隠れているケースが少なくありません。営業担当者(必要に応じて審査担当者も同行)が現地を訪問し、自分の目で状況を確かめ、直接事情を聴取することが重要です。
Step 3:新規出荷の停止
これ以上債権を増やさないことが原則です。特に遅延が数カ月以上に及ぶ場合は、新規の契約や出荷を停止します。
- 契約書への明記: この措置をスムーズに行うため、売買契約書には「支払遅延時には新規出荷を停止できる」旨の条項(Events of Default条項など)をあらかじめ盛り込んでおく必要があります。
Step 4:保証人への通知と実行要求
保証(特に銀行保証)を取り付けている場合は、保証人にも遅延の事実を通知します。債務者からの回収に不安がある場合は、速やかに保証の実行を求めましょう。
- 保証期限に注意: 銀行保証などに期限がある場合は、必ず期限内に書面(できれば配達証明郵便)で通知を行う必要があります。
3.長期化・複雑化した場合の「専門家活用」
通常の督促では回収が難しい場合、遅延が長期化した場合、相手が倒産した場合、または複雑な法的問題が絡む場合は、迷わず弁護士に相談しましょう。
特に海外では、弁護士の専門分野が細分化していることが多いため、事案の内容(売買契約、担保取引、会社法など)に応じて最適な弁護士を使い分けることが肝要です。
交渉による「回収繰延べ」の注意点
相手のキャッシュ・フロー等を勘案し、回収期限の延長(繰延べ)が妥当と判断される場合は、回収繰延契約を結ぶことも選択肢の一つです。その際、債権を手形や先日付小切手で明確化したり、新たな担保・保証を要求して債権の質を高めることが重要です。
- 保証人の同意が必須: 保証人がいる場合、保証人の同意なしに支払猶予に合意すると、保証そのものが無効になる国が多くあります。繰延契約には、保証人にも当事者として署名させるか、別途同意書を取り付けることを忘れないでください。
まとめ
海外取引における債権管理は、事前の契約による「予防」と、遅延発生時の「迅速な初動」が全てです。
古い商慣習にとらわれず、現地の最新の決済事情や法制度に合わせた対策を講じることが、貴社の利益を守る鍵となります。不安な点があれば、早めに専門家へ相談する体制を整えておきましょう。