海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。
通称TPP11、正式名称「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)」に英国が加盟します。2024年12月15日までに加盟することが正式に決まりました。これで加盟国が合計12か国になるのでTPP11という通称も変わるでしょうが、英国を含んだCPTPPは一体どのような FTAでしょうか?
*以下、英国を含まないCPTPPをTPP11と記載します。
*日本は政府や公的機関で EPA(経済連携協定)と呼びますが、本ブログでは FTA(自由貿易協定)と記載します。外国では FTA と呼ぶのが主流です。
CPTPP、現加盟国と新加盟の英国(非太平洋圏から初の加盟国)
出典:合同会社トロ資料
1.TPP11の加盟国および特徴
「環太平洋」という冠が付くだけあり、TPP11加盟国は太平洋周辺国です。地図の時計回りに、①カナダ、②メキシコ、③ペルー、④チリ、⑤ニュージーランド、⑥オーストラリア、⑦シンガポール、⑧ブルネイ、⑨マレーシア、⑩ベトナム、⑪日本、が加盟国です。
TPP11は多国間のFTA 、つまりMega FTA の1つです。2国間FTAと異なり、加盟国が構成する地域全体での部材調達が可能なことから、強靭なサプライチェーンの構築ができる可能性があります。もちろん、加盟国それぞれの原産性を満たすことが前提です。
TPP11はRCEPなど他のMega FTA に比べ、
1)関税削減率が高い
2)サービス貿易や投資の自由度が高い
3)知的財産権、電子商取引(EC)、公開入札、国有企業の統治機構、など規制の枠組みに関する条項を含む
ことが特徴とされています。
サービス貿易の自由度とは、コンビニを含む流通分野への外資規制の緩和(小売り分野などで外資を認めない法令でなく外資x%まで認める、というように法令改定)などが実例です。
また、サーバー関連設備の自国内設置を要求することも禁じています。
2.英国が加盟するCPTPPのメリットはなに?
第一に、アクセスできる市場が増えることです。
CPTPPの加盟国であるマレーシアとブルネイにとって、これが英国と結ぶ最初のFTAになります。マレーシアやブルネイに生産拠点を持つ企業にとって、それら拠点と英国の貿易において関税減免を享受できるようになる、ということです。
第二に、サプライチェーンの強化ができることです。
既にTPP11地域でサプライチェーン網を構築している企業にとっては、英国が加盟することで市場と供給元の多様化をはかることができます。一方でEU主体にサプライチェーンを構築している日本企業にとっては、CPTPPを利用してのサプライチェーン強化ではなく日EUと日英のFTAを活用する方をお勧めします。
いずれの方法も、加盟国の業者から多様な部材を調達できますが、日本との距離や日本企業の進出実態から考えるとCPTPPでのサプライチェーン強化が選択肢に上がりそうです。
サプライチェーン強化(部材の輸入関税減免)のためには、原産地規則において累積という方法を利用します。例えば、CPTPPルールに基づいてベトナム原産、マレーシア原産とそれぞれ判定された原材料を日本で組み込んだ場合、ベトナム原産材料もマレーシア原産材料もCPTPPルールに基づく日本原産原材料と見なすことができます。CPTPP域内の原産材料を活用することで日本原産という証明が容易になります。その日本原産品をCPTPP域内国に販売すると、輸入時にCPTPPの関税率(減免関税率)を利用することができます。
*累積について(農林水産省 関税分類番号変更基準)
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokkyo/food_value_chain/document/attach/pdf/r5_2_haifu-8.pdf
*累積について(税関 付加価値基準 P13)
https://www.customs.go.jp/roo/text/tpp_roo.pdf
3.英国加盟後のCPTPPの姿は?
CPTPPに加盟を希望する国は、中国、台湾(中華民国)、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイ、ウクライナ、インドネシア、がウェイティングリストに名を連ねています。
英国の次の加盟国がどこになるか予測は難しいですが、市場とサプライチェーンの拡大が期待できることには変わりありません。
また、2020年代に入って急速に進化したデジタル貿易、AIを利用した新たな貿易慣行、環境保護の強化、という新たな課題も反映したFTAに進化する可能性があります。
新たな課題にきちんと対応できるサプライヤーであるか自社を振り返り、取引相手もそのような事業者か、ということもきちんと調べる重要性も増して行く、ということです。
まとめ
2024年12月15日までに英国がCPTPPに正式加盟します。TPP11に英国を加えた市場とサプライチェーン網を考える時代になりました。FTAの中で自由度と先進性の高いCPTPPですが、AIや環境という新たな課題にも対応する必要性も考えます。取引相手の信用調査も一層重要になります。
【プロフィール】
合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)
大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングや研修サービスを、民間企業およびジェトロや大阪商工会議所などの公的支援機関向けに提供している。これら機関向けセミナー実績も多数有する。
URL:https://sub.toro-llc.co.jp