2014年下半期から世界的に原油価格が急落し、大きな話題となっています。
原油価格の上昇・下落が及ぼす影響は、ガソリン価格の変動のみに留まりません。「原油相場を見れば世界経済がわかる」と言っても過言ではないほど、世界経済の動きと原油価格は密接に連動しているのです。
今回は、現在世界をにぎわせている原油価格急落の原因と、その影響についてご紹介します。
▼目次
そもそも原油価格とは
一般的にニュースで取り上げられる原油価格とは、NYMEX(ニューヨーク商品取引所)に上場されているWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油1バレル(約159リットル)あたりの先物取引価格を指します。西テキサス地方で産出されるWTI原油は、硫黄分が少なく多量のガソリンを取り出すことのできる高品質な原油です。また、このWTI価格の他にも、北海のブレント価格、中東のドバイ価格が指標として用いられる場合もあります。
2014年6月下旬に1バレル100米ドルを超えていたWTI原油価格は、今年2月前半の時点で50米ドル前後を行き来しています。この価格は、アメリカ発の世界金融危機直後の2009年5月ごろと同水準です。
なぜ原油は急落したのか?
以下では、原油価格急落の原因として考えられる各要素をご紹介します。
【1】需要国の景気低迷
原油相場が急落し始めた時期に、アメリカと中国の製造業の成長が予想を下回るとの報道がありました。また、近年は欧州経済も低迷が続いています。
このような世界規模の景気停滞ムードに伴い、原油に対する需要も減少すると予測され、価格が引き下げられたと考えられます。
【2】シェール革命
従来、石油は中東を中心とした地域で産出され、日本やアメリカなどの需要国は輸入に依存してきました。しかし、技術革新が進んだ結果、現在ではアメリカやカナダにあるシェール層と呼ばれる固い岩盤から石油(シェールオイル)や天然ガス(シェールガス)を抽出することが可能となったのです。
世界最大の原油消費国として知られるアメリカが、この「シェール革命」により自国内で原油生産を行えるようになったことも、輸入量の大幅な減少と原油価格の下落に関係しています。
【3】産油国の「シェールオイルつぶし」
サウジアラビアを中心とするOPEC(石油輸出国機構)加盟国は、原油価格相場の暴落を受け、再度価格を釣り上げるべく、11月末の会合で原油の減産に踏み切るとみられていました。
しかし、市場の予想に反して、OPECは減産を行いませんでした。原油の減産に至らなかった理由としては、上述の「シェール革命」への対抗措置であるという見方がなされています。
シェールオイルの採掘には従来方法に比べて高額なコストがかかりますが、原油価格が高値である限り、費用に見合う利益を得ることは可能とされています。しかし、OPECが原油を以前どおり供給を続け、原油相場が下がれば、採算のあわないシェールオイルの採掘は中止に追い込まれるでしょう。
ただし、石油収入に依存する中東諸国は自国経済を維持するため、シェアを守るべく減産を見送らざるを得なかった、とのシンプルな見解を示す専門家も少なくありません。
原油価格が下がるとどうなる?
原油価格の下落は、世界経済全体から、私たちの日常生活にいたるまで、さまざまな影響を及ぼします。以下では、原油価格下落により生じ得るメリットとデメリットについてご紹介します。
【原油下落のメリット】
端的なメリットとしては、ガソリン価格が下がり、飛行機の燃油サーチャージなども含む輸送コストが安くなることが挙げられます。また、原油を原料とする石油化学製品も、低コストでの生産が可能となります。
さらに、火力発電所における燃料の調達コストが下がることも、原油価格下落に伴うメリットの一つと言えるでしょう。特に東日本大震災後、世界一割高とも言われる価格でLNG(液化天然ガス)を輸入し火力発電を行っている日本にとっては、大きな恩恵となります。
【原油下落のデメリット】
原油価格に連動してLNGや石炭などの価格も下がるため、燃料輸出に依存している国々にとっては厳しい情勢が続くでしょう。
たとえば東南アジアの産油国マレーシアは、国の歳入を支える国営石油会社からの収入が減少したことを受け、財政支出の見直しを迫られています。同様に、ロシア、ナイジェリア、ベネズエラなどでも、原油価格下落による財政悪化の可能性が懸念されています。
おわりに
原油価格急落の原因や、相場下落に伴うメリット・デメリットについてご紹介しました。
原油相場の急落には、さまざまな要因が絡み合っています。現在の価格水準は数年続くという予想も出ているため、長期的な対応・順応を心がけることが大切です。
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