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【日本の中古品輸出は「宝の山」か「地雷原」か?】 AIも教えてくれない2つの落とし穴

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海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。

 

日本の中古品が海外で人気です。中古車は言うに及ばず、お古であっても日本製の家電製品、衣料品などを求める人が海外には大勢います。

しめた!ビジネスチャンスだ!」 そう思って飛びつくと、思わぬ落とし穴が待っています。しかもそれは、ネット検索や生成AIで調べただけでは気づきにくい、企業の存続に関わる重大なリスクなのです。

 

今回は、輸出実務において特に見落とされがちな「安全保障貿易管理」と「関税削減(FTA/EPA)の罠」について解説します。

 

 

 

 

1.ネット検索や生成AIで調べる「中古品の輸出における諸注意」

古物商許可、廃棄物でないこと(バーゼル条約、詳細は下記URL参照方)、規格や仕様(電源等)、梱包や輸送方法、等について、ネットや生成AIは多くの注意事項を与えてくれます。

これら注意事項に対応して輸出すれば良いのですが、実は他にも重要なことがあるのです。

バーゼル条約関連(廃棄物等の輸出入管理の概要 令和6年版 環境省、経済産業省)

https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/kankyokeiei/basel/pdf/r6_gaiyou.pdf

 

 

落とし穴1:その機械、軍事転用されませんか?(安全保障貿易管理)

工作機械、通信機器、半導体素子等の中には軍事の開発や生産等に使われるだけの高度な性能を持つものがあります。中古品であっても高性能を発揮する可能性がある物品については、リスト規制のマトリクス表に基づく該非判定を行い、該当する場合は輸出前に経済産業大臣から輸出許可を得る義務があります。マトリクス表の仕様に達しない性能の(民生品を含む)物品についても、用途は何か?(開発、製造、貯蔵など、軍事利用しないか)、利用者・使用者は誰か?(彼らが軍事用途で利用・使用した実績があるか、あるいは今後その可能性はあるか)、ということを輸出前に調べることが求められています。

中古品は少なくとも1回は使用され、あるいは使用のために取引された物品です。使用者によっては物品を改造し、部品を変更しているかもしれません。物品に改造や変更がなされている場合は、輸出者が性能や構造部品について該非判定を行うことは事実上不可能です(該非判定は原則として生産者が行います。ただし該非判定の責任は輸出者が負います)。すなわち、中古品の輸出においては、特に工作機械や通信機器や半導体素子など高性能物品の場合は、性能によって、あるいは用途や現地利用者・使用者次第で輸出を見送る、ということになるかもしれません。

営業面では避けたい選択肢ですが、安全保障貿易管理制度に違反するコンプライアンス意識の欠如した企業と社会から見なされるよりは良い選択肢ではないでしょうか。

日頃から海外の取引先やその再販売先について情報収集しておくことで予防線を張っておきたいものです。

安全保障貿易管理の最近の動向(2025年6月 経済産業省)

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/forum/reiwa7/08_250624_METI.pdf

マトリクス表

https://www.meti.go.jp/policy/anpo/matrix_intro.html

 

 

落とし穴2:「関税ゼロにして」という悪魔の囁き(原産地証明書)

海外バイヤーからよくある要望がこれです。 「日本とのEPA(経済連携協定)を使って関税を安くしたいから、原産地証明書(C/O)を出してくれ」
結論から言えば、中古品輸出でこれに応えるのは「事実上不可能」です。

 

FTA/EPA協定に基づく原産地証明書(以下C/O)の発行依頼は誰にでもできるわけではありません。経済産業省によると「原産品判定依頼資格者」は、「生産者」又は「原産性に係る生産情報を有する輸出者」です。結論から申し上げると、中古品の輸出においてC/Oを発行することは事実上不可能です。

なぜならば、中古品の場合は使用者が変わる中で物品の改造や構成部材を変更する可能性があります。改造や構成部材が変更された物品については、物品の原材料構成情報やコスト情報が生産時の情報とは異なっている、そして何がどのように異なっているのか(改造や交換をした当事者、改造や交換に要した部材の品名、部材の材料、費用、関連する水道光熱費、改造した場所および年月日、等)を具体的に証明することは困難です。

したがい、中古品の輸出に関してC/Oを発行し輸入国や地域の関税減免を受けることは非常に難しいと言えます。第三者(日本商工会議所)発行によるC/Oだけでなく、CPTPP等自己証明C/Oについても同様に証明は困難です。

経済連携協定に基づく原産地証明書の利用(2025年6月 経済産業省)

https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/download/gensanchi/roo_guideline_preservation.pdf

 

まとめ

中古品の輸出では、相手国の規格や規制、廃棄物でないこと、梱包や輸送方法等の確認に加えて、安全保障貿易管理に注意して商品を選ぶことが重要です。中古品は改造や部品交換されることがあるので、高性能な物品によっては正しい該非判定が非常に難しいことがあります。加えて、大量破壊兵器の開発や生産に利用される可能性が無いか、物品だけでなく取引相手の信用調査を定期的にしっかり行うことが求められます。FTA/EPA協定に基づく原産地証明書の発行も、中古品の場合は事実上不可能です。

 

【プロフィール】

合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)

 

大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングや研修サービスを、民間企業およびジェトロや大阪商工会議所などの公的支援機関向けに提供している。これら機関向けセミナー実績も多数有する。日本政策金融公庫「輸出ノート」や「輸出コラム」の執筆を担当する。

メール:info@toro-llc.co.jp

URL:https://sub.toro-llc.co.jp 

 

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