海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。
海外販路開拓の1つに、当方に支払い決済を行い在庫を保有する販売代理店(Distributor)を現地に見つけ、そこ経由で当該国に販売する、という方法があります。相手を見る目が求められるのはもちろんですが、国によっては外国勢に厳しい法令があるため途中解約もままならない、という状況になることがあります。
どういうことでしょうか?
後腐れなく関係を清算できますか?
出典:合同会社トロ資料
代理店保護法(通称)はどこの国にある?
国によって、自国の業者を保護する法令を施行するところがあります。多くの事業者にとって関心がありそうな国には、インドネシア、中東湾岸諸国、ブラジル、があります。外国業者である日本の事業者は以下に注意して販売代理店選びや契約締結をすることが求められます。
UAE商業代理店法(ジェトロ編) https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/middle_east/ae/business/pdf/business_201703.pdf
中東湾岸諸国の商事代理法(ジェトロ編) https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/middle_east/business/pdf/business_201611.pdf
当局への登録が義務付けられる
販売代理店契約(Distributorship Agreement)、代理店(代理人)契約(Agent Agreement)を、当該国の担当省庁に登録する義務を負う規則になっています。登録により現地の販売代理店や代理人は法に基づく保護を受けることになります。
登録を抹消するには両当事者の書面による合意が必要であり、登録抹消するまでは新規登録ができない条件の国があります。
インドネシアでの販売代理店契約は登録義務化(ジェトロ編) https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/d7d90af5d75a88a8.html
独占契約が義務付けられる
アラブ首長国連邦UAEの商業代理法は、契約は独占契約であること、を明文化しています。非独占契約であっても、当該国で他の取引業者を設置しない場合は事実上の「独占」と見なす、というトルコのようなところもあります。
無期限契約と見なされる
ブラジルでは契約を一度延長すると「無期限」契約と見なされます。あるいは、契約期間が定められ契約締結から6カ月を経過していない契約書を引き継ぐ場合は全て無期限契約と見なされます。
ブラジルにおける販売店・代理店保護に関する法律(ジェトロ編 P17) https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001108/agency_brazil.pdf
途中解約が困難
代理店保護法は契約の途中解約を禁止してはいませんが、解約は「重大な根拠」がある場合に限る、とする場合があります。重大な根拠とは具体的に、契約で決めた販売目標の未達成、違反行為、契約条項の不履行、当方の競合他社の製品やサービス取扱い、当方のブランドイメージや商品・サービスの評判を損なう等の怠慢、が該当します。
重大な根拠を証明するためには、タイムリーに書面でその旨を通知してエビデンスとして残す、といった行為が必要です。
手切れ金を覚悟する
無事途中解約できた、契約更新せずに契約満了できた、としても、販売代理店への金銭的補償を求められることを考えないといけません。裁判をしても販売代理店の主張が認められることが多いようです。
事前に販売代理店候補のことをよく調べる
こうしたトラブルに見舞われないよう、販売代理店や代理店(代理人)候補のことを念入りに調べることが不可欠です。何度も会って相手企業や個人のことを知ることは当然ですが、信用調査を行って財務状況や訴訟を含む事故履歴の有無を調べます。
まとめ
新規市場で販売代理店や代理店(代理人)を起用する場合、国によっては自国業者を保護する法令のために契約を解除するのが難しいことがあります。当該国の法令をよく調べた契約書を準備すると共に、取引候補が実績をあげているかどうか、過去に事故を起こしていないか、という調査を事前に行います。
【プロフィール】
合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)
大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングや研修サービスを、民間企業およびジェトロや大阪商工会議所などの公的支援機関向けに提供している。これら機関向けセミナー実績も多数有する。
URL:https://sub.toro-llc.co.jp