コロナ禍のインド経済対策
インドで日本企業の進出支援を行っている公認会計士の野瀬大樹です。
昨年の日本の総裁選でも大きな議論の一つとなったのが「経済対策」でした。発生から1年半たっても飲食業や旅行業、そして非正規労働者を中心にそのダメージは大きく、これを放置すれば日本経済に与える悪影響は看過できないからです。
これはインドでも同様です。インド政府はインドでコロナ禍が騒がれだした昨年の3月から今に至るまで様々な政策を発表しています。今回はインド政府が発表した代表的なコロナ禍における経済支援策を抑えておきましょう。今回は個人に対する政策、次回に法人に対する政策を見ることにしましょう。
1.ローンの猶予
インドではEMIといういわゆる「分割払い」が一般的です。車はもちろん家やちょとした家電に至るまで分割払いを利用して購入する人が多いのです。
そんな生活に馴染んでいるEMIですが、コロナ禍が騒がれだした2020年の3月の時点でその支払を3か月猶予することが発表され、これは最終的には6か月まで延長されました。この期間たとえ支払いを行わなくとも個人のクレジットスコアリングに影響を与えないことも金融機関には義務付けられたのです。
ただこの政策、支払いは待ってもらえるものの金利はその期間もかかるという少し中途半端なものになったため、高額なローン(家や車)であればその金利負担を嫌い、結局利用されなかったという問題点もありました。
上記に加えて、要件を満たす住宅ローンを抱えている世帯に対して所得制限を設けてはいるものの、その利息支払いに補助金を支払いました。1年だけという期限はありますが、コロナで冷え込んだ建築市場へのカンフル剤となるため、業界からは大歓迎されました。
2.所得税納税の猶予
こちらは現地日本人にも影響があったため有名なのですが、個人所得税の納税が通常の7月31日から12月末まで大幅に延期されました。
ただこちらも、納税ではなく還付の場合、むしろ「早くもらいたい」人が多いため申告は通常通りに行う人が多かったようです。インド人は「節税」が大好きで、節税商品を購入保有している人が多いので「還付」になる人が多いからです。
3.金利引き下げ
日本の日銀にあたるインド準備銀行は、コロナの影響を鑑み利下げに踏み切りました。これは企業はもとより上記のEMIをたくさん抱える個人家計部門の負担を減らすことが主な目的となります。
しかし金利の引き下げは、彼らが持つ定期預金の金利の引き下げをも意味するため、家計へのマイナスの影響も大きく、効果としては限定的なものとなりました。
以上のように、個人を対象としたさまざまな政策は講じられたものの、どれも決定的な起爆剤になるようなものはなく、財源に大きな制約を抱えるインド政府の苦悩を垣間見ることができます。
まとめ
インド政府のコロナ禍での個人への支援策
- ローン支払の延期
- 納税の延期
- 金利の引き下げ
ただし、どれもプラスにもマイナスにも効果があるものなので、消費マインドを戻す決定打とはならず。
【プロフィール】
野瀬 大樹(のせ ひろき) 公認会計士・税理士
大手監査法人勤務の後、NAC国際会計グループに参画、インドのニューデリーにて主に日系企業をサポートするコンサルティング会社NAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、同代表に就任。インド各地にて、会計・税務・給与計算に加え、各種管理業務に関わるコンサルティングサービスを提供している。
事務所HP:http://in.nacglobal.net/