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【海外取引の危機管理】取引先が倒産! 資産回収で「やってはいけないこと」と日米法制度の落とし穴

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前回は支払い遅延を防ぐための方法についてご説明しました。今回は、海外取引における取引先倒産時の対応について日本と米国を比較しながら解説致します。

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「取引先が倒産した」——その一報が入った瞬間、多くの担当者は「すぐに商品を回収しろ!」「支払いを止めろ!」と動こうとします。しかし、その行動が後にとんでもない法的リスクを招くことをご存知でしょうか?
今回は、国際取引における「倒産時の対応」について、特に日米の法制度の違いに焦点を当てながら、債権者が知っておくべき防御策を解説します。

1. 「商品引き揚げ」と「相殺」の落とし穴

取引先が倒産状態(支払不能)に陥った際、直感的な行動が法的な壁に阻まれることがあります。

商品の引き揚げは可能か?

「売った商品はまだ相手の倉庫にあるのだから、取り返せばいい」と考えがちですが、所有権留保などの担保設定がない限り、勝手な持ち出しは認められないケースがほとんどです。

「相殺」のタイミングにご用心

買掛金と売掛金を相殺(チャラにする)して被害を最小限にするのは定石です。しかし、米国法ではタイミングがシビアです。

  • 日本: 破産宣告前に対抗要件を備えていれば、宣告後でも相殺可能なケースが多いです。
  • 米国: 破産申請前であれば相殺可能ですが、申請後は「Automatic Stay(自動停止)」により、勝手な相殺は禁止されます。さらに、申請前90日以内の相殺も、特定の計算式に基づいて「否認(無効)」されるリスクがあります。

米国における相殺(Setoff)は、連邦破産法第553条等で厳格に規定されています。特に「Automatic Stay」違反は懲罰的損害賠償の対象にもなり得るため、米国企業相手の相殺は必ず現地弁護士の助言を得てから実行してください。

2.「回収したのに返金?」恐怖の否認権(Preference)

倒産直前に運良く回収できた代金や、新たに取り付けた担保が、後から「無効」にされ、返還を求められる制度があります。これを「否認権(Avoidance Power)」や「偏頗(へんぱ)譲渡」と呼びます。

米国の3つの罠

米国破産法には以下の強力な否認規定があります。

  1. Preferential Transfer(偏頗譲渡): 破産申立前90日以内に行った債務弁済や担保設定は、他の債権者との平等を害するとして否認される可能性があります。
  2. Insider Preference 役員や関係会社など「インサイダー」への弁済は、期間が1年に延長されます。経営に関与していなくても、株式保有比率等でインサイダーとみなされる場合があるので注意が必要です。
  3. Fraudulent Transfer(詐害譲渡): 資産隠しや不当な安値での譲渡は、1年以上前(州法により3〜6年前)に遡って否認されます。

3.日米倒産法の徹底比較(Chapter 11 vs 会社更生・民事再生)

日本と米国では、倒産処理のプロセスや債権者の権利に大きな違いがあります。以下に実務上の重要ポイントを整理しました。

① 管轄と制度

  • 米国: 連邦破産法(Bankruptcy Code)に基づき、破産裁判所が管轄します。再建型としては「Chapter 11」が有名です。
  • 日本: 地方裁判所が管轄し、会社更生法や民事再生法が適用されます。

現在の米国実務において、法人(Corporation/Partnership)の再建手続は「Chapter 11」が一般的です。また、小規模事業者向けに簡素化された「Subchapter V(Chapter 11の一部)」という新制度(2020年施行)も存在します。

② 債権者による「強制倒産」の申立て

債務者が自ら申請するだけでなく、債権者が「もうこの会社は無理だ」と申立てを行うこと(Involuntary Bankruptcy)も可能です。

債権者による申立要件として一定の債権額以上であることが必要です。米国連邦破産法第303条における現在の基準(2022年4月調整時点)では、債権者の要件額は合計で18,600ドル以上(※定期的に改定あり)となっています。古い基準のまま判断しないよう注意してください。

③ リース物件の扱い(True Lease vs Finance Lease)

米国では、リース契約が実質的に「担保目的リース(disguised security interest / finance lease)」とみなされると、UCC第9編(担保取引)の適用対象となり、UCC(統一商法典)ファイリング(登記)がなければ担保権として優先弁済を主張できず、一般債権者と同列に扱われてしまうリスクがあります。

従って、契約内容・経済実態から「真のリース(True Lease)」であることが明確になるようようドラフティングすることに加え、念のためUCCファイリング(登記)を行っておくことが実務上重要です。

4. 契約書での防衛策(Executory Contract)

倒産時、まだ履行が終わっていない契約(Executory Contract)はどうなるのでしょうか?

米国では、管財人(またはDIP=占有継続債務者)が、その契約を「引き継ぐ(Assume)」か「拒絶する(Reject)」かを選択できます。

債権者としては、契約を解除できる条項(Ipso Facto Clause)を入れておきたいところですが、米国破産法下では、倒産を理由とした自動解除条項は無効とされるケースが多いのが現実です。

しかし、「期限の利益喪失条項(Acceleration Clause)」を設けておき、倒産前の早い段階で債務の全額支払いを求める権利を確保しておくことは、相殺権を行使するための準備として極めて重要です。

まとめ

海外取引先の倒産は、債権回収の「終わり」ではなく、複雑な法的手続きの「始まり」です。

  • Automatic Stay(自動停止)の威力を知る。
  • Preference(否認)のリスクを計算に入れる。
  • UCCファイリングなど、平時からの保全措置を怠らない。

そして何より、法制度や金額要件は時代とともに変化します。万が一の際は、現地の最新法制に精通した弁護士と連携し、「引くべきか、攻めるべきか」を冷静に判断することが、損失を最小限に抑える唯一の道です。

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